ソコロフ、バレンボイム、アンゲリッシュの「ゴルトベルク」 | 戯言ゴルトベルク変装曲集 Goldberg Variations 第1回

text:四方善郎

【 序文 】

クラシックファンに人気の音楽情報誌『ぶらあぼ』の新ウェブサイトで私にスペースが与えられることとなったというから、それはもうびっくり仰天だ。それもひたすらJ.S.バッハの《ゴルトベルク変奏曲 BWV988》のディスクについて書いてよいというのだから。たしかに私は人生の半分どころか、高校生くらいから40数余年の間《ゴルトベルク変奏曲》に魅了され聴き続けてきた。それは聴き始めた当時のレコード、ラルフ・カークパトリック、グレン・グールド、アンソニー・ニューマンなどのゴルトベルク変奏曲に、同じ楽曲であるにもかかわらず全く異なる音楽世界が繰り広げられること、楽曲としての音の構造物──音符が柱や壁を、休符・静寂が空間──がたいへん面白い!と感じたからだろう。演奏家によって描かれるゴルトベルクはどれもこれも違うし、どれひとつとして同じものはない。さらには奏でる演奏家の生き様がありありと伝わってくるのがこの作品なのだ。

そんな面白さに魅せられてからは、新譜が出れば、中古レコードショップで遭遇すれば、いったいあなたはどんなゴルトベルク世界を見せてくれるのか?とあれもこれも聴いてみたくなりレジへ運ぶ。問題は、その熱が40余年経った現在もまったく冷めなかったことだ。そんなゴルトベルクな人生、ゴルトベルクな日々、コツコツと蒐集してきたゴルトベルク変奏曲の録音(CD&LP)は現在1000枚を超えて久しい。そのうち再リリースものや私家盤・プライベート録音などを除いたオフィシャル・リリース盤は600点超。その中からピックアップしながらご紹介していこうと思う。依頼を引き受けることにした理由はふたつ。音楽が配信時代となって、もはや集めるという魅力が失せ、また誰もが配信できるようになり玉石の大海原と化してしまったこと、もうひとつは、私自身も人生の節目の年齢となったこと。そんな時代と自分の節目として、これまで我が家にやってきたゴルトベルク変奏曲の記録たちを、その一部になるであろうが少しずつご紹介しつつ、ゴルトベルク40余年の一区切りとしたいと思う。

第1回 ソコロフ、バレンボイム、アンゲリッシュの「ゴルトベルク」

◆グリゴリー・ソコロフ
Grigory Sokolov(piano)
収録時間:86:43/収録年:1982/レーベル:Melodiya/品番:C18851(2LP)

グリゴリー・ソコロフは1950年生まれのロシアのピアニスト。1970年代にはリヒテル、ギレリスなどとともに活躍していた。ゴルトベルク変奏曲は1982年2月27日にレニングラード音楽院大ホールでのライヴ録音。当時LP2枚組でリリースされたが、その後久しく再リリースされず、ようやくCD化(Melodiya CD-1002049)されたのは2012年。その間「幻の名盤」などとも言われていた。ロシアのピアニストらしく一音一音明快に鳴らしながら進む骨太で力強い演奏が心地好い。ライヴでこれほどの均整の取れたゴルトベルク変奏曲を披露する力量にも驚かされる。

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