菜の花とアサリとベーコンのスパゲッティ| マエストロのレシピ Vol.1

text & photos:曽我大介

Vol.0 序文

音楽人は食いしん坊が多い。音楽史を紐解けばグルメが嵩じて数々の料理のレシピを残し、あのロートシルト家のワイン選定までやってしまったロッシーニ。私の師匠一人、故・マエストロ・ジュゼッペ・シノーポリはグルメとしてのみならず、素晴らしい料理のシェフでもありました。某都内の超一流ホテルの厨房で、山高帽のシェフをアシスタントとして使い、私もなぜか音楽ばかりでなく料理のアシスタントとして参加して、マエストロの料理の腕前を間近で見られたのは楽しかった思い出です。

考えてみれば音楽を作り出すことは、料理を創り出すことと似ているのかもしれません。数々の食材の中から絶妙のコンビネーションを探り出し、調和(ハーモニー)を作り出す。新鮮な食材では時間が勝負になってしまうことは、常に時間との戦いである音楽と一緒。

扱い方によってはその素晴らしい食材(音楽作品)をダメに(ひどい演奏に)してしまうところも似ているようです。

優れた音楽演奏は、喜びと驚きと感動を人にもたらしてくれます。この「驚き」というのがなかなかのキーワードで、古典作品の中からも、他の演奏で味わえなかった新鮮な驚きを見つけ出してくるのが、一流の演奏家の証であるとも思っています。もちろんその「驚き」のもたらしかたも人によって違います。とある演奏家は音色だったり、他の人はテクニックだったり、曲の解釈だったり。でも複数の音楽の事象が高次元で融合された時の喜びは何事にも代え難いものがあります。また雑音に近いような音ですら、時には心を震わせるエネルギーを持っていることがあります。

そう。料理も多種多様。超高級料理店の複雑な高級食材の組み合わせの極上の喜びから、市場の新鮮な食材を湯がいただけ、あるいは場末の居酒屋の驚きのおつまみまで。感動をもたらしてくれる料理は多種多様なのです。

それが平凡なそれなりに美味しいけれど、驚きも興奮ももたらさない食事のいかにつまらないことか(演奏もそうですね)。職業柄、旅に出ることが多い私は仕事の合間を縫って、食材を作っている現場に赴くこともあります。最先端のGPSを導入して、良いものを作るためなら何にでもテクノロジーを用いる大規模ワイナリーから、昔ながらの手法を地道に守って人の手をかけているワイナリー。手間暇かけて手法を編み出し、ベストの魚を生み出そうとする養殖場から、地元の海を自慢してやまない魚市場。私たちが日々目にしている食材には、それに関わってきた人たちのこだわりと情熱が感じられます。それは命を削るようにして書かれた自筆譜の筆跡を見る時にも似ています。

食も音楽も人間の情熱の塊であるからこそ、感動をもたらしてくれるのです。このコラムでは私が情熱を抱きながら調理している(時間がかかる料理の時には横に総譜(スコア)を置いて、読みながら総譜に油染みをつけている)、鉄板レシピをその料理にまつわるエピソードやライフスタイルとともにご紹介したいと思っています。

Vol.1
菜の花とアサリとベーコンのスパゲッティ

材料(3〜4人前)
菜の花:2束
アサリ:500〜600g
赤パプリカ(大):1/4コ
ベーコン(塊):200g
白ワイン:200〜250cc
ニンニク:1片
塩:適量
スパゲッティ:300〜400g(人数に応じて)
オリーブオイル:適量

タイトルに「春」が付くクラシックの名曲は数多くあります。「スプリングソナタ」とか「春の声」、「春の歌」、「遅くきた春」など、すぐに思い起こします。暗く重い雲のたれ込める、日照時間の短いドイツの冬を過ごした作曲家たちにとって、春の喜びは格別のものだったのでしょう。

筆者はシューマンの「春」を譜読みしていたら、春のヨーロッパの菜の花畑を思い出し、この料理が作りたくなりました。アサリも旬の食材、どうかたっぷり使いましょう。

作り方
1. アサリは砂抜きをしておく

ポイント アサリは暗い場所を好むので、塩水(200ml当たり塩小さじ1)につけたら、新聞紙で蓋をすると良い。アサリが吹き出す水も飛び散らなくて良い。

2. 菜の花は半分に、ニンニクはみじん切り、パプリカは5〜7mm四方、ベーコンは1x1x3cmの目安で大きめに切っておく。ベーコンは細かく刻まない方が食感が味わえて良い。

ポイント ニンニクは切り方で香りの立ち方が変わります。生ニンニクの香りが好きな人はニンニク絞り器を使って、アサリを投入した後にニンニクを絞り入れても良いかも。

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この記事を書いた人

曽我 大介(Daisuke Soga)

東京ニューシティ管弦楽団正指揮者。「ブザンソン」、「コンドラシン」での優勝をはじめ、各地のコンクールで上位入賞。日本、ヨーロッパ、ブラジルをなど世界を股にかけて活躍中。ルーマニア・ブラショフ市、ブラジル・ロンドリーナ市名誉市民。