ブラッド・メルドーの現代性 | クラシック・ファンのためのJazz入門 第2回

text:藤本史昭

前回、ブラッド・メルドーは積極的にクラシック音楽にコミットしている、と書きましたが、そういう彼の傾向は、最初から露わになっていたわけではありません。むしろこの人は、レディオヘッドのナンバーを好んで取り上げたり、現代ロックのビートを大胆に導入したり、要するに“今”の音楽シーンを体現するピアニストとしてまず注目されたのでした。

しかしながら、そういう演奏の中にも、メルドーがクラシックから大きな影響を受け、深い敬意を抱いていることは明らかでした。ソノリティを重視したデリケートなタッチ。デビュー当時からのトレードマークである対位法的な奏法。昏い叙情性。以前インタビューした時、僕は試しに「グールドの弾いたブラームスの間奏曲集、知っていますか?」と尋ねたのですが、果たして彼は「もちろん。恥じらいを湛えた演奏だよね。愛聴盤だよ」と、少しうれしそうに答えてくれました。

とはいえ、2006年に彼がルネ・フレミングとのデュオ作『ラヴ・サブライム』を発表した時はさすがに驚きました。いきなりクラシック界を代表するディーヴァとコラボかよ、と。しかもここでやっているのは、ジャズのスタンダードとかではなく(ご存知の通りフレミングは時折ジャズも歌います)、リルケやルイーズ・ボーガンの詩にメルドーが曲をつけた自作曲で、フレミングは完全なクラシック・マナーで歌っているのです。

アンネ・ゾフィー・フォン・オッターと共演した『ラヴ・ソングス』もそう。これはメルドーの書き下ろし曲の他に、ジョニ・ミッチェルやミシェル・ルグラン、レノン&マッカートニーなどのナンバーも取り上げられていて多少はカジュアルなのですが、それでもオッターは過度にポピュラー・テイストに傾くことなく、確固たる自分のスタイルを貫き通しています。

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この記事を書いた人

藤本 史昭(Fumiaki Fujimoto)

1961年、宮崎市生まれ。大学卒業後クラシック音楽専門誌編集部に入社しカメラを始める。1991年からは『スイング・ジャーナル』誌ディスク・レビュアーを担当。以降ジャズ誌やwebマガジンの記事、CDのライナーノーツを多数執筆。現在は『JaZZ JAPAN』誌に寄稿する一方で、クラシック音楽関連の写真家としても活動している。共著に『200DISCS ブルーノートの名盤』『菊地成孔セレクション〜ロックとフォークのない20世紀』(いずれもGakken)、『文藝別冊 セロニアス・モンク』『文藝別冊 チャーリー・パーカー』『文藝別冊 ジョン・コルトレーン』(いずれも河出書房新社)等がある。