演出家アレックス・オリエが語る《トゥーランドット》

オペラ夏の祭典2019-20 Japan↔Tokyo↔World

<おしらせ>
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東京2020オリンピック・パラリンピックにあわせ、2年にわたり「オペラ夏の祭典2019-20 Japan↔Tokyo↔World」が行われる。東京文化会館、新国立劇場が共同で制作、びわ湖ホールと札幌文化芸術劇場が連携する。さらに、2020年にはザルツブルク・イースター音楽祭、ザクセン州立歌劇場とも連携するなど、国際的に展開するオペラプロジェクトだ。

その第1弾として今年7月に上演されるのは、中国を舞台としたプッチーニのオペラ《トゥーランドット》。1992年バルセロナオリンピック開会式の演出も手がけたスペインの前衛的パフォーマンス集団ラ・フーラ・デルス・バウスの芸術監督アレックス・オリエが演出、大野和士の指揮の下、バルセロナ交響楽団がオーケストラピットに入る。

去る6月11日、キャスト・スタッフが一堂に会し、顔合わせ、コンセプト説明が行われた。
(2019.6/11 新国立劇場リハーサル室 取材・文・撮影 寺司正彦)

■大野和士(指揮)
このプロダクションは史上初めて東京都と国が協働する、まさに特別な企画です。日本の名だたる4つの劇場がひとつのオペラを作るというのも、これまでになかったことです。 

今日ここにアレックス・オリエをみなさんにご紹介できることを、本当に嬉しく思います。私はこれまでワーグナー《さまよえるオランダ人》、シェーンベルク《期待》などで彼と協働しています。彼の芸術の強みは、巨大でモニュメンタルな舞台セットと、非常にドラマティックな演出にあります。そして、人間の繊細な内面を表現することにとても秀でています。ヒロイズムの象徴たるトゥーランドット、自己犠牲によって愛の力に気づかせるリュー。コインの表裏のような二人の女性の複雑な関係は、人間の二面性とも言えます。その内面に光を照らすのに、彼ほど適した人材はいません。


大野和士(左)とアレックス・オリエ

■アレックス・オリエ(演出)
日本に行くことをとても楽しみにしていました。しかもオリンピックを盛り上げようという機会に呼ばれたことは、とても光栄です。バルセロナ出身の私にとってバルセロナ交響楽団と共に日本で上演できることを、とてもうれしく思います。

プッチーニのオペラは《蝶々夫人》《ラ・ボエーム》に続く私の3つめの演出作品となります。今秋には《マノン・レスコー》も手がけます。ということで、私がいかにプッチーニが好きか、ということがみなさんに伝わるかと思います。

私はプッチーニは根っからの舞台人・演劇人だと思っています。プッチーニの作品にはすばらしいストーリー性があるのですが、人間からあふれ出す感情がとてもよく音楽に表れている。なかでも《トゥーランドット》は素晴らしい作品です。モダンな音楽は、ストラヴィンスキーなどに近いものがあります。

《トゥーランドット》の物語は現実ではない、ファンタジーの世界です。トゥーランドットは、ペルシャ、現在のトルクメニスタンにいたトゥーランの娘です。演出家としてこの物語のことを考えていると、トゥーランドットがカラフに謎を投げるのと同じように、私の中にも謎や疑問が沸き起こりました。
何しろ未完の作品なので、プッチーニがこの作品で最終的に何が言いたかったのか?そのことをずっと考えていました。もしプッチーニが生きて最後まで書いていたら、どのような結末だったのか?最後の15分間はのちにフランコ・アルファーノが補筆したものですね。この重要な部分をプッチーニ自身が書いていたらどのような内容になったのでしょう。その謎が解きたかったのです。
そして、二つの答えにたどり着きました。

《蝶々夫人》や《マノン・レスコー》のようにシンボリックな部分があるにせよ、《トゥーランドット》にはそれらのような人間味が感じられない。《トゥーランドット》は、「権力」と「トラウマ」についての物語ではないかと考えます。
トゥーランドットは男性を憎んでいます。多くの謎を投げかけるのは結婚したくないからです。その思いはどこから来ているのか?それは彼女の祖母がある男性から襲われ、そのことを代々聞かされトラウマとなっているからなのです。精神科医といろいろと話してみたのですが、過去にトラウマがあるとその次の世代、そのまた次の世代へと伝わる、ということがあるそうです。

今回の演出では、幕が開き音楽が始まる前に、祖母と幼少時のトゥーランドットによる短いプロローグを挿入します。そこで繰り広げられる芝居によって、観客のみなさんにこの物語が「トラウマ」によって産み出されたものだということを伝えたいのです。

カラフもまたトラウマを抱えています。父が王であり権力を持っていたのに、彼は国を追われ、今は普通の人でしかない。カラフはトゥーランドットを一目見て惹かれるが、それは彼女の「権力」に惹かれたのです。ペルシアの王子が殺されるたった5秒間のうちに人を好きになるはずがない。カラフは彼女の持つ権力に魅了されるのです。自分が以前持っていた権力に対するノスタルジーのようなものですね。

権力というものを何で表現するか。最初に思いついたのはピラミッドです。民が下にいて、上に権力者がいる。そしてこのピラミッドを逆ピラミッドにしてみようと考えました。上には権力、下には民が狭いところにぐちゃぐちゃっと集まって暮らしている。ピラミッドのほかにも、いくつかインスピレーションを受けた風景があります。そのひとつが数百年以上前につくられたインドの「階段井戸」。幾重にも分岐しながら地下奥深くまでどこまでもどこまでも続く階段をつたって人々が奥底の水を汲みに行く。写真家セバスチャン・サルガドによるブラジルの金鉱に群がる無数の人々の姿や、映画『ブレードランナー』からも示唆を受けました。

舞台はほぼすべてが逆三角形の階段になっているのがおわかりになるでしょう。過去にしろ未来にしろ権力は権力。過去のもの、未来のもの、これは宇宙船なのか、ピラミッドなのかもわからない。権力を現す一方で、鎧を脱いでひとりの普通の「女性」に戻ったトゥーランドットの姿も表現したい。

インド・チャンド・バオリの階段井戸を説明するオリエ

今回、ピン、パン、ポンがとても重要な役目を担います。3幕にわたって、それぞれ異なる立場を演じます。これまで誰も観たことがないような喜劇としての重要性がそこに表れます。

トゥーランドットもカラフも過去の大きなトラウマを抱えていますが、リューを通じてトゥーランドットは愛を知る。しかしこのストーリーに果たしてハッピーエンドがあり得るのか?このことについては、かなり考えました。次々に処刑を行い、リューも死に追い込んだ、そんな女性が愛を見つけはたして幸せになることができるのか?男性への憎しみもまだ持っています。カラフは愛でなく、トゥーランドットの持つ権力に憧れた。そんな二人が一緒になってハッピーエンドがあり得るか? あり得ないのではないか?
この物語の結末をどう表現するか?稽古を通じていろいろと試してみたいと思っています。

オペラ夏の祭典2019-20 Japan↔Tokyo↔World《トゥーランドット》は7月12日(金)に東京文化会館で開幕、次いで新国立劇場、びわ湖ホール、札幌文化芸術劇場hitaruで上演される。


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【関連記事】
●都と国が共同でオペラを制作〜オペラ夏の祭典2019-20 Japan↔Tokyo↔World
https://ebravo.jp/archives/39918

【公演情報】
オペラ夏の祭典2019-20 Japan↔Tokyo↔World
プッチーニ《トゥーランドット》(新制作)

2019.7/12(金)18:30、7/13(土)14:00、7/14(日)14:00
東京文化会館
2019.7/18(木)18:30、7/20(土)14:00 、7/21(日)14:00、7/22(月)14:00 新国立劇場 オペラパレス
2019.7/27(土)、7/28(日)各日14:00 びわ湖ホール 大ホール
2019.8/3(土)、8/4(日)各日14:00 札幌文化芸術劇場 hitaru

指揮:大野和士
管弦楽:バルセロナ交響楽団

演出:アレックス・オリエ
美術:アルフォンス・フローレス
衣裳:リュック・カステーイス
照明:ウルス・シェーネバウム
演出補:スサナ・ゴメス

出演
トゥーランドット:イレーネ・テオリン/ジェニファー・ウィルソン
カラフ:テオドール・イリンカイ/デヴィッド・ポメロイ
リュー:中村恵理/砂川涼子
ティムール:リッカルド・ザネッラート/妻屋秀和
アルトゥム皇帝:持木 弘
ピン:枡 貴志/森口賢二
パン:与儀 巧/秋谷直之
ポン:村上敏明/糸賀修平
官吏:豊嶋祐壹/成田 眞
合唱:新国立劇場合唱団/藤原歌劇団合唱部/びわ湖ホール声楽アンサンブル

オペラ夏の祭典2019-20 Japan↔Tokyo↔World
https://opera-festival.com/

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