宮本文昭 ロングインタビュー 最終回

<おしらせ>
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interview & text:オヤマダアツシ
photos:野口 博

ドイツのオーケストラで首席奏者を務めながら、日本ではクラシック音楽の枠を飛び越え、ジャズ&フュージョンやラテン、映画音楽などジャンル無用のCDを次々にヒットさせていた1980〜90年代。そうした活動で宮本文昭やオーボエという楽器を知った方も多かっただろう。しかしその陰にはクラシック音楽、特にモーツァルトやマーラーの演奏を磨くためのヒントがあった。

ポップスへの挑戦を通じて 新しい演奏技術を習得


──クラシックと並行して、1980年代になると前田憲男さんとのジャズ・アルバムをはじめ、フュージョンやボサノヴァなどジャンルを超えた音楽の演奏を積極的にされていますね。

当時は、オーボエという楽器をなんとか一般的に認知してもらいたいという一心でした。CMに出演したり、ドラマの音楽(1999〜2000年、NHKの朝ドラ『あすか』のテーマ音楽「風笛」)を演奏させていただいたり、やれることはなんでもやろうと思って。

──そうした企画は、どういうきっかけで生まれたのでしょうか。

僕からCDのメーカーへ、こういうことをやってみたいと提案しました。最初はスタッフの方にも驚かれましたけれど、押し通してしまったんです。もともとクラシック以外の音楽も好きでしたし、別のジャンルの音楽を演奏することで自分が成長できると思いましたから。

──どういったところが成長のポイントになったのでしょうか。

意外に思われるかもしれませんが、実はクラシックの演奏で使ういろいろなテクニックより、ジャズやポップスをそれらしく聴かせるためのテクニックのほうが実に幅広く、開拓のしがいがあるんです。クラシックの吹き方でジャズを演奏してもかっこよく聞こえないですし、楽譜通りに吹けば形になると思ったら大間違いで、演奏者は技術の百貨店みたいに自分の手の内を駆使したり工夫しないと、決してうまく吹けませんから。音程のとり方ひとつとっても、クラシックでは習わない技術が必要になるし、その道のプロであるミュージシャンの方たちに仕事を通じていろいろ教えていただきました。ちょっとかじったくらいで吹いても、聴いてくれる人は絶対に納得しませんよね。そういうのは、僕はいやなんです。

──おそらく繊細なレヴェルでの作業だと思いますが、最初からうまくいきましたか。

全然できなくて、いかにもクラシックの演奏家が借りてきた猫のように吹いてます、という感じでしたよ。オーボエはただでも一本調子になりがちですから、そうならないためにいろいろな表情を作れないといけないですし、ロングトーンや横隔膜の使い方を工夫したり、いろいろなタイプのフォルテピアノを試したり、やるべきことはたくさんありました。リードも、ブラームスを吹くときとポップスを吹くときはまったく違うものを作らなくてはいけないので、削り方をかなり研究しました。そういうことを付け焼き刃ではなく、日常的にやっておいて自分の中に定着させ、すぐに使えるようにしておかないといけない。指揮者や共演者からオーダーされたら、すぐにできないと意味がないわけです。

山下洋輔(左)と


ポップスで習得した奏法がマーラーの交響曲で役立つ!

──そうして習得した技術は、クラシックでも役に立つことがありましたか。

モーツァルトのピアノ・コンチェルトやマーラーのシンフォニーでは、役立つ瞬間がたくさんありました。特にマーラーの音楽は、学校で習ったことを紋切り型に吹いていても、素っ気なくてつまらない演奏になってしまうんです。一例を挙げるなら、交響曲第1番の第4楽章で一番の聴かせどころだと言っていいソロがあるんですけれど「音をポンと出したら押して、それを響かせておきながら引いて、ピアニッシモだけど勢いはつけて……」という具合に、ポップスで培った繊細な技術をフルで使うくらいじゃないといい音楽にならない。目立たないくらいのグリッサンド(複数の音を連続してつなげるように吹く奏法)を使ってメロディの歌い方を工夫したり、マーラーの音楽にはそういう余地がたくさん隠れていますから、ポップスも手を抜かずやっておいてよかったと思うことは多々ありました。

──そういう信念や、追究するという執着のようなものは、お子さんの頃からあったのでしょうか。

いつからかはわからないですが、「あなたはオーボエに向いていない」と否定されたらその真実が知りたくて、それがわかったら修正するべく努力してという繰り返しだったかもしれません。好奇心と探究心、反骨精神、それから構築したり制覇していくことの楽しさを知っているんだと思います。でも、それがなければ楽器なんて絶対に上手にならないですね。若い頃、給料をはたいてスチューダーという有名なオーディオメーカーのオープンリール・デッキを買ったんです。それで何をしたかというと、まずお気に入りだったナタン・ミルシテインが弾いた小品などを、38cm/sという速いスピードで録音する。次にそれを19cm/sという倍の遅さで再生して、ミルシテインがどういうヴィブラートをかけているかをじっくり聴き、それをオーボエで真似してみるんです。何度も繰り返し吹いて、だんだん似てくると楽しくてしょうがない。そういうオタク気質なところと執念みたいなものが、きっと僕の音楽を作ってきたんでしょうね。

──そうした精神的なものは、生徒さんたちにも伝授していますか。

ずいぶん厳しいレッスンをしていますから本気度が伝わればいいなと思いますが、最終的には自分たちで考えたり工夫をしないと上達しませんので、ヒントを与えるくらいの気持ちです。

──最後に、宮本さんはオーボエ奏者を引退するときも指揮をやめるときも潔く身を引きましたけれど、ご自分の中で人生美学のようなものがあるのでしょうか。

どこかで武士の生き方や精神に憧れているところはありますね。「武士道とは死ぬ事と見つけたり」という言葉がありますけれど、自分に対して恥ずかしくない生き方や、一命を懸けるという潔さにも憧れます。国外生活が長かったため、古風なジャパニーズの生き方に惹かれたのかもしれません。演奏家は音を空間に放ち、瞬間の中に生まれたり消えていくものに対して美を感じる仕事でもありますから、そういったところが武士の精神に通じるのかもしれませんね。

──いろいろな興味深いお話、ありがとうございました。

(終)

第1回 「挫折を味わってからの再起、『ロッキー』のような減量も」
第2回 シューベルトの歌曲からオーボエの語り口を学ぶ


profile
宮本文昭(Fumiaki Miyamoto/音楽家)

1949年東京に生まれる。18歳でドイツにオーボエ留学後、エッセン・フィルハーモニー管弦楽団、hr交響楽団、ケルンWDR交響楽団やサイトウ・キネン・オーケストラ、水戸室内管弦楽団などの首席オーボエ奏者を歴任し、ソリストとしても世界的に活躍。2007年にオーボエ演奏活動 を終えた後も、自らプロデュースするオーケストラ MAP’S を主宰し指揮活動を始める。2012年4月より東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の初代音楽監督に就任し、2015年3月に任期を終えた。現在は、東京音楽大学器楽科オーボエ専攻教授として後進の指導にあたる一方、複数の音楽コンクールの審査員を務めている。


information

指揮者・宮本文昭、1日だけ復活!
東京音大の教授陣や卒業生、愛弟子たちなどが集まる木管アンサンブルが素晴らしいモーツァルトなどを聴かせる(学生のみならず一般音楽ファンも入場可)。

東京音楽大学 創立111周年記念演奏会シリーズ
「木管ソロ・室内楽 演奏会」

2019.6/30(日)15:00
中目黒・代官山キャンパスTCMホール

追加公演
2019.6/30(日)18:30 
中目黒・代官山キャンパスTCMホール

*15:00~公演の短縮版となります。
詳細は後日、下記ウェブサイトにて発表予定。
https://www.tokyo-ondai.ac.jp/cms/wp-content/uploads/2019/06/111woodwind.pdf

出演/
◎R.シュトラウス:13管楽器のためのセレナード
指揮:宮本文昭 Fl:相澤政宏 中野真理 Ob:吉村結実 篠原拓也 Cl:四戸世紀 永和田芽衣子 Fg:水谷上総 小林佑太朗 Hr:水野信行 西本 葵 木川博史 勝俣 泰 Cb:星 秀樹

◎ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ ト短調
Fl:工藤重典 Pf:大堀晴津子

◎W.A.モーツァルト:セレナード第10番「グラン・パルティータ」
指揮:宮本文昭 Ob:吉村結実 篠原拓也 Cl:四戸世紀 永和田芽衣子 Bst-hr:松本健司 日下翔太 Fg:水谷上総 小林佑太朗 Hr:木川博史 勝俣 泰 水野信行 西本 葵 Cb:星 秀樹

CD『Fumiaki Miyamoto』
SICC-700
ソニーミュージック ¥3000+税