金川真弓(ヴァイオリン、チャイコフスキー国際コンクール ヴァイオリン部門第4位入賞)

interview & text:寺西 肇

最も“旬”の音楽家の1人と言い切って、間違いないかもしれない。今年6月にモスクワで開かれた、第16回チャイコフスキー国際コンクールのヴァイオリン部門で、第4位入賞を果たした金川真弓。大胆さと繊細さを兼ね備えた快演で、既に国際的な活動を展開している若手実力派に、演奏の理想や今後の目標など、彼女の“今”をきいた。

C)Francisca Blaauboer

──チャイコフスキー・コンクールへの第4位入賞、おめでとうございます。少し落ち着かれた、今のお気持ちは? 入賞後、ご自身の音楽や生活に何か変化はありましたか。

コンクールで経験するとても凝縮された時間は、終わった直後でもずいぶん昔の出来事のように感じます。コンクールの準備段階から、いつもより長い時間を練習に割いていたので、そのスタミナが残っているのは、まだ体で感じてはいますが、その他には、特に生活の変化はありませんね。

──入賞を知った直後の気持ちは?

きっと、どのファイナリストも入賞に値するレベルの方だろうと思っていたので、実は、ファイナルよりセミ・ファイナルの結果を聞く時の方が、よっぽど緊張しました。最後の結果発表の時は、他のコンテスタントの演奏は聴いていなかったのもあって…このような大きいコンクールになると、第1位以外には、あまり実力の差はないと感じています。

──第一次予選からの金川さんの演奏ぶりを拝見していると、とても落ち着ついていらっしゃるし、笑顔も見られて、どこか楽しんでいるようにも…。どのような気持ちで、コンクールに臨まれましたか。

どれほどコンサートと同じように準備しようと心掛けても、前にも後にも同じ曲を弾く人と比べられると思うと、やっぱり別の感覚の緊張がありますね。それをポジティブに捉えると、自分自身に対して、一番チャレンジできる機会だということになります。実は数年前、ある音楽祭で、ゲイリー・レボフという、とても印象的なスポーツ心理学者と会い、その後、彼の本も読みました。それ以来、何年もかけて培った自分の中の最高の可能性を、どうやってプレッシャーの中で発揮できるのか…。色々なアイデアを常に試しています。人間の脳と体は、本当にすごいものですね!

※ゲイリー・レボフ(Gary Leboff) イギリスを代表するスポーツ心理学者。オリンピックの金メダリストや国際的なサッカー・チームのメンバー、テレビに出演するスターから、10代の若者や主婦まで、様々な人々に助言を行っている。著書に『DARE』(2007年、Hodder Mobius刊)

──既にソールドアウトとなりましたが、次回の日本でのリサイタルは、同じチャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で2位に入賞した藤田真央さんとのご共演(11/7 浜離宮朝日ホール)。ほやほやの入賞者同士の共演…とは実にタイムリー! ご本人としては、どういう気持ちなのでしょうか。

実は、真央さんにリサイタルでご一緒できるかお尋ねした時は、まだお会いしたことも無かったのです。私が心から信頼している音楽家の方が、彼をご紹介くださいました。その後、コンクールのウェブサイトで彼の名前を見たときは、とても嬉しかったです! コンクールの期間中は、さすがに自分以外のヴァイオリニストの演奏を聴くのは、とてもストレスがかかるのでしませんでした。そこで、「良い気分転換になるはず」と、真央さんの1次予選を聴きに行きましたが、彼の演奏には圧倒されました。洗練された美しい音色で、しかも、爆発的なエネルギーというよりは、深みの方が勝る演奏。でも、同時に、大胆さもあるんですよ。

──そもそも、金川さんにとって、ステージにおける自分と共演者は、どのような位置づけですか。

オーケストラと共演する際には、大勢の人と限られた短い時間で準備をするため、やりたいことをほぼすべて準備してから、リハーサルに臨みます。一方、デュオや室内楽では、もちろん自分の考えを持ちつつも、一緒に新しいものを創り上げることができます。特にヴァイオリンとピアノでは、ピアノの方がはるかに弾く音の数は多いですし、音楽の半分以上はピアニストの力量にかかっていると言っても、過言ではないと考えています。

──リサイタルのプログラミングもそうですが、金川さんは常に、時空を超えるように、幅広いレパートリーの設定を心がけておられますね。

まだまだ新しい発見が多く、いつも手探りではありますが、「色とりどりなプログラムを作りたい」と常に思っています。私は、ヴァイオリンのリサイタルは、ピアノなどに比べると、全体的に人気が下がってきているようにも感じています。でも、一世紀前に遡って、ハイフェッツのリサイタル・プログラムを見てみると、ピアノと一緒にコンチェルトの1楽章を弾いて、ソナタを1曲、小曲を5曲…などと、今ではなかなか想像できないような内容でした。音楽は“芸術”である一方、それぞれの楽器で魅せる“エンターテインメント”でもあります。聴衆の皆さんには、まるで花火のような一面もお楽しみいただきつつ、音楽の内省的な部分も感じていただけたら幸いです。

──ステージで演奏する上で、最も大切にしていることは?

なかなか説明が難しいのですが、ステージの上で「自由に感じる」ことです。できるだけその瞬間の感情に反応して演奏できるよう、普段から練習しています。音楽を演奏するという行為は、本当に自分をさらけ出してしまうことで、何も隠すことはできません。ですから、できるだけ正直な自分を見つけて、聴いてくださる方が、それを受け止めてくだされば、と思っています。

──かたや、しっかりと骨太で、豊潤な音色が印象的ですね。

音色に関しては、“外見”と“中身”みたいな面がありますね。きれいな声で電話番号を読むのと、ひどい声で涙の出るお話を読むのと、どちらを聞きたいと思われますか? それはきっと人によって違うと思います。理想を言えば、「きれいな声で、面白いお話」なんでしょうけれど…(笑)

──ドイツでお生まれになって、日本でヴァイオリンをはじめ、アメリカを経て、今はまたドイツで研鑽を積まれています。グローバルなご経歴は、自身に何かの影響を及ぼしていますか?

一般論を述べることは、常に危険性もはらみますが…。私は今、様々な場所で、先生や周りの方々から学ぶことができるのを、とても幸せに思います。文化や価値観も違いますから、音楽作りの上でも、もちろん違いはあります。しかし、自分がどこにいたとしても、自分が信じることのできるものを作ろうとする気持ちだけは、決して変わることはありません。

──演奏以外の取り組みでは、子供たちを対象とした活動が目立ちますね。ご自身もまだお若いですが、「次の世代」を見据えての啓蒙活動に、積極的な理由とは。

いま私が日々感じているのは、場所によって、お客様もそれぞれ違うこと。国によって、街によって、演奏する部屋によっても、それぞれの習慣や雰囲気を持っています。もう何十年も前から、ヨーロッパでも、アメリカでも、クラシック音楽を聴く人が、どんどん年齢を重ねて、少なくなっていると懸念されています。しかし、もしかすると、「大きなホール」「物音ひとつ立てない聴衆」「夜に2時間のプログラム」…といった、コンサートの形式そのものが、少しずつ時代遅れになってきているのかもしれません。ですから、私は、まっさらな気持ちを持つ子供たちに、彼らのなじみある環境の中で、音楽に触れてもらい、その中身や可能性を一緒に経験していけたら、と考えているのです。

──金川さんにとっての理想の演奏家像、目標とするヴァイオリニストは?

私の好きなヴァイオリニストはハイフェッツ、そしてミルシテイン。演奏を聴くと、いつも嬉しい気持ちになります。現役で活躍されている中では、ヒラリー・ハーンの練りに練られたコンセプトやプロジェクトは、とても魅力的です。クレーメルの音も、いつどこで聴いても彼のものだとわかりますね。

──最後に。ご自身のこれからの「夢」を、ぜひ聞かせてください。

私の夢は、音楽を通して色々な人に出会い、お互いの人生がより豊かになることですね。その方法は、時々によって、変わってゆくにせよ…。


Profile
金川真弓(Mayumi Kanagawa)

1994年ドイツ生まれ。4歳から日本でヴァイオリンを始める。その後ニューヨークを経て、12歳でロサンゼルスに移る。現在はベルリンのハンス・アイスラー音楽大学で、コリヤ・ ブラッハーのもと研鑽を積んでいる。
2018年、ロン=ティボー国際音楽コンクールで第2位に入賞するとともに最優秀協奏曲賞を受賞し、大きな話題を呼ぶ。また、2016年第18回プリンセス・アストリッド国際音楽コンクール、2013年第4回ヤッシャ・ハイフェッツ国際ヴァイオリン・コンクール、2011年第26回アーヴィング・M・クライン国際弦楽コンクールでいずれも優勝をおさめ、国際的に高い評価を得ている。
これまでに、ハンヌ・リントゥ指揮フィンランド放送交響楽団とベルクのヴァイオリン協奏曲を、アレクサンダー・シェリー指揮ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団とチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を、モデスタス・ピトレナス指揮リトアニア国立交響楽団とブルッフのヴァイオリン協奏曲を共演している。この他、マリインスキー劇場管弦楽団、プラハ放送交響楽団、クレメラータ・バルティカ、ロサンゼルス室内管弦楽団等のオーケストラと共演を重ねている。
ヴェルビエ、イエロー・バーン、アスペン等の音楽祭にも出演するほか、2012年にはアメリカの“パフォーマンス・トゥデイ”アーティストに選ばれ、演奏とインタビューがナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)を通じて全米に放送された。
これまでに、日本で名倉淑子、ジュリアード音楽院プレカレッジで川崎雅夫、ロサンゼルスのコルバーン・スクールにてロバート・リプセットの各氏に師事。使用楽器は、ドイツ演奏家財団のドイツ国家楽器基金から貸与されたペトラス・グァルネリウス(マントヴァ、17世紀後半製作)。

公式サイト https://mayumikanagawa.com/

Movie
チャイコフスキー国際コンクール ヴァイオリン部門
FINAL 
SEMI-FINAL
FIRST ROUND