映画『蜜蜂と遠雷』特集 | 直木賞作家・恩田 陸 インタビュー(1)

interview & text:オヤマダアツシ
photos:M.Otsuka/Tokyo MDE

2016年9月に発刊されてクラシック音楽ファンの間でも話題になり、翌年の「第156回直木三十五賞(=直木賞)」「第14回本屋大賞」などを受賞して注目された小説『蜜蜂と遠雷』が映画化された(10月4日全国公開)。世界中からコンテスタントが集まる「芳ヶ江国際ピアノコンクール」を舞台に、登場人物たちの挫折と再生、音楽との関係を深めていく様子などを描いたこの物語は、まるで実際のコンクールを疑似体験しているような面白さに満ちている。作家の恩田陸さんに、執筆のことや映画の印象などをうかがった。

コンクールを実体験するような臨場感、
4人のコンテスタントが羽ばたく物語

「よく映画化できたな、というのが率直な感想です。あらゆる面において映像化するのは難しいだろうと考えていましたし、企画のお話をいただいたときも、途中でボツになると思っていたほどでした。それがこれほど見事な作品になったというのも驚きでしたし、演じてくださった俳優さんたちや、それぞれの演奏を担当してくださった4人のピアニストの皆さんも素晴らしかったです」

世界中からコンテスタントが集まる「芳ヶ江国際ピアノコンクール」を舞台にした『蜜蜂と遠雷』は、そこに集まる人々(コンクールの参加者、それを支える人々、審査員たちなど)の行動や細やかな心情の揺らぎ、コンクールが進むにつれて湧き上がってくる高揚感、そしてもちろん文章から聞こえてくる音楽などが渾然一体となってドラマを作り上げていく作品だ。コンテスタントたち、特に物語の軸となる主要な4人のキャラクター(下記)が際だっており、彼らのうち誰に共感するかを楽しみながら読んだという方もいらっしゃるはずだ。

栄伝亜夜
かつて天才少女として注目されたが、母親の死がきっかけでステージへ上がれなくなり、音楽業界や世間からは「終わった人」というレッテルを貼られている。しかし音楽への愛情は忘れられず、20歳になった今、再起をかけて本コンクールにエントリー。他のコンテスタントたちからも影響を受けながら再生していく。

高島明石
音楽大学在学中から有名コンクールに出演して注目されるものの、卒業後は楽器店に就職して家庭をもつ。その暮らしの中で、音楽(ピアノ)が一部のプロフェッショナルだけのものではなく、多くの人々に開かれていいはずだという強い思いを抱き、最後の挑戦という気持ちで本コンクールにエントリーする。申し込み年齢制限ぎりぎりの28歳。

マサル・カルロス・レヴィ・アナトール
ジュリアード音楽院に在学する正統派のピアニストであり、多くの人から期待されている。栄伝亜夜とは幼い頃、同じピアノ教師に師事しており、当時の教えを忘れてはいない。2人は本コンクールで再会し、互いにその音楽性を称え合いながらそれぞれの演奏を深めていく。

風間 塵
伝説的ピアニストだった故ユウジ・フォン=ホフマンの秘蔵っ子であり、まだ16歳。音楽学校等での専門的な教育も受けず、自宅にはピアノもない(コンクールの間は、音の出ない鍵盤でイメージトレーニング的な練習をしていた)。養蜂業の父をもつことが知られたのを機に、コンクールの聴衆には「蜜蜂王子」というニックネームで注目される。

小説の中でのコンクールは、実際のそれと同様に第一次予選、第二次予選……と進み、本選ではオーケストラと共に任意の協奏曲を演奏する。それぞれの予選・本選で登場人物たちが弾く選曲にもリアリティがあるものの、その一方でおそらく現実的にはあり得ないことも起きるため(たとえばコンテスタントの一人が第三次予選でエリック・サティの「あなたがほしい」を、間奏曲のように何度も演奏する)、小さなドラマを生み出すポイントにもなっている。そうした意外性も、読んでいて思わず会場の様子を想像してしまうところだ。

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