映画『蜜蜂と遠雷』特集 | 直木賞作家・恩田 陸 インタビュー(2)

interview & text:オヤマダアツシ
photos:M.Otsuka/Tokyo MDE

ピアノコンクールを巡るさまざまなことを克明に描く中で、音楽のもつ限りないパワーや、人の心の機微などを描いた『蜜蜂と遠雷』。原作者である恩田陸も絶賛する映画化が実現し、主要キャストである4人の俳優、さらにはそれぞれの演奏を担当したピアニストたちが早くも注目を集めている。後半では映画についての印象をお聞きしつつ、音楽コンクールを楽しむポイントなどについてもうかがった。

4人のピアニストが演奏を担当
キャラクターと音楽性が見事にリンク

天才たちが登場する『蜜蜂と遠雷』は、松岡茉優(栄伝亜夜)、松坂桃李(高島明石)、森崎ウィン(マサル・カルロス・レヴィ・アナトール)、鈴鹿央士(風間塵)といった配役で映画化され、『愚行録』で長編デビューを果たした石川慶監督がメガホンをとって撮影が行われた。長編小説(文庫では上下2巻)を約2時間に凝縮するため、原作を克明に映像化するのは難しいが、さまざまなクラシック音楽が自然に映像の中に溶け込み、俳優陣のピアニストぶりも見事な作品となっている。

「主要な4人がそれぞれ見事に演じてくださって、本当に感激しました。キャスティングの段階では『高島明石が松坂桃李さんでは、ちょっとかっこよすぎるんじゃないか』などと思っていたのですが、完成してみたら見事に地味な家庭人の明石を演じていて驚きました。『蜜蜂と遠雷』では、コンテスタント同士がぶつかったり、いがみ合ったりといった関係性を意識して避けましたし、(ライバルに送ったりする)カミソリも登場しません。純粋に音楽のことを書きたかったからです。石川監督は『出てくるのが善人ばかりですから、これじゃドラマが作れないんですよね』と笑っていらっしゃいましたけれど。演奏シーンは皆さん自然に演じていらっしゃって、それぞれの役へのなりきりぶりをぜひ観ていただきたいです。監督も『ただピアノを弾くのではなく、天才が弾いているというつもりで』とアドバイスをし、俳優さんたちはかなり本格的に練習をされたと聞きました。その成果は、間違いなくスクリーンで楽しめると思います」

そのピアノ演奏だが、4人それぞれの音を注目のピアニストたちが担当していることも、大きなトピックだ。栄伝亜夜を河村尚子が、高島明石を福間洸太朗が、マサル・カルロス・レヴィ・アナトールを金子三勇士が、風間塵を藤田真央がそれぞれ担当し、キャラクターのイメージに添った演奏を聴かせてくれる。その演奏は登場人物ごとにまとめられ、4枚のインスパイアード・アルバムとなって発売される。

「私自身は映画制作の現場にはまったく関わらず、本選のシーンを撮影する際に会場に行って『垂れ幕やコンテスタントのネームプレートが、まるで本当のコンクールみたいだな』と感激したくらいでした。でも、演奏の録音にはお邪魔しました。こちらも俳優さん同様、それぞれのキャラクターが弾く音楽とピアニストの皆さんが違和感なく、あらためて映画化されてよかったと思っています」

映像化されたことによって、新しい発見などはあったのだろうか。

「個人的に好きだったのは、亜夜と塵が『月の光』『月光』などを連弾するシーンと、みんなが浜辺を歩くシーンですね。どちらも、こうなるのかと感慨深かったです。小説では音や演奏も読者それぞれが想像して作り上げるものですけれど、映画ではそれが具体的に鳴ってしまうわけですから、そこは大きな違いだと思います。特に第二次予選でみんなが弾いた『春と修羅』という曲は、原作ですと無調の音楽で後半には即興演奏によるカデンツァがあります。映画化にあたっては作曲家の藤倉大さんが素敵な曲を書いてくださいました。しかも4人それぞれの音楽性に合わせて4パターンのカデンツァを作ってくださり、私自身も聴いてみて『なるほど、こういう音楽だったのか。でもたしかに、こういう曲を私は書いたよね』と最終的には納得してしまったのです。明石が弾いた宮沢賢治の『あめゆじゅとてちけてけんじゃ』という言葉に付けられたメロディを聴いて、『そうそうこういう曲だったかもしれない!』と思いました」

音楽コンクールの楽しみは、新しい才能にいち早く出会えること

おそらく小説『蜜蜂と遠雷』を手にとって音楽コンクールに興味をもった人も多かっただろうし、今回の映画公開でさらに増えるのではないかと予想する。そういった方のためにコンクールの見どころをうかがってみた。

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