サントゥ=マティアス・ロウヴァリ | 世界を変える新世代(ニューカマー)指揮者たち 第2回

text:奥田佳道

 

またしてもフィンランドから

もじゃもじゃ頭の細身の少年が、伸ばした両腕を高く、大きく動かし、嬉しそうに「指揮」をしている。いや指揮と言うよりも、くねくね動く。しなやか、と言うよりも、柔らかい。でも摩訶不思議な躍動感が、妙に心地よい。緩急のコントロール、と言うよりも息づかいの変幻が鮮やかだ。

マティアス・ロウヴァリ
2014年10月4日 東京交響楽団での公演より
写真提供:東京交響楽団

音楽と、オーケストラと戯れているのか。無邪気なのか。計算づく、なのか。初めて見た人は「これが今どきの指揮なのか」と驚く。大丈夫なのかと。それぐらいユニークに舞い、踊る。

でもこの若者、抜群に面白い。オーケストラも嬉しそう。ユニークな指揮が表層的なパフォーマンスに留まらず、音楽の色あいや進んでいく方向を視覚化。オーケストラと聴き手に、実は強じんなメッセージを発しているのだ。軟体動物(失礼)のように動くのに、磁場がある。でなければ、お国ものとはいえ、「フィンランディア」とシベリウスの交響曲第1番で、これだけ大胆な演奏は出来ない。この人は過去の演奏を「なぞらない」。しかも新機軸が受け入れられている──。

それがフィンランドから現れた指揮者サントゥ=マティアス・ロウヴァリとの出逢いだった。2012年5月、東京交響楽団の東京オペラシティシリーズ。1985年11月生れのロウヴァリ、このとき26歳。この日はソリストが会場リハーサル(ゲネラルプローベ)後に体調を崩し、「フィンランディア」と交響曲第1番だけが演奏されたのだが、ロウヴァリは何事もなかったかのように自らの音楽を奏でる。ハプニングに動じない姿勢も指揮者には必要だ。

両親はラハティ交響楽団のメンバー。打楽器を専門的に学んだロウヴァリは、ヘルシンキのシベリウス・アカデミーでハンヌ・リントゥ、ヨルマ・パヌラ、レイフ・セゲルスタムに師事という王道を歩む。

パヌラ元教授のコネクションを通じロンドンの大手音楽マネジメントに紹介され、サカリ・オラモの推薦で急きょフィンランド放送交響楽団の指揮台にも立った。それが10年ほど前のこと。ロスアンジェルス・フィルハーモニックやバーミンガム市交響楽団との縁もできた。この歩みは、同世代の指揮者ミルガ・グラジニーテ=ティーラ(リトアニア出身、バーミンガム市交響楽団の音楽監督)と同じだ。ロウヴァリがキャリアの上では彼女よりも「先輩」だけれども。

マティアス・ロウヴァリ
2014年10月4日 東京交響楽団での公演より 写真提供:東京交響楽団

北欧での躍進は、特に驚くことではなかった。2012年の東響客演後、ロウヴァリはタンペレ・フィルハーモニー管弦楽団の芸術監督兼首席指揮者に就任。14年10月には東響とプロコフィエフ・プログラムで再会、17年にはエーテボリ交響楽団の首席指揮者にも迎えられた。北欧とイギリスをベースにキャリアを築く──サロネン、広上淳一、マンフレート・ホーネック、パッパーノ、大野和士、ウェルザー=メスト、パーヴォ・ヤルヴィ、ヴァンスカ、ハーディング(年齢順)みんなそうだった。

しかし19年5月に発表された「人事」は、世界を驚かせたのではないか。そのオーケストラの首席客演指揮者に任命されていたとはいえ。サントゥ=マティアス・ロウヴァリ、サロネンの後任として、2021/2022年のシーズンからフィルハーモニア管弦楽団の首席指揮者に就任。すでに次期、指名を意味するDesignateという文字が躍る。

世代交代を超えた、おおきな変化が訪れようとしている。来たる2019/2020年のシーズン、ロウヴァリはニューヨーク・フィルハーモニック、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、アムステルダムのロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団へのデビューを果たす。

今年11月で34歳。檜舞台での仕事が始まる。

Profile
奥田佳道(Yoshimichi Okuda)

1962年生まれ。ヴァイオリンを学ぶ。ドイツ文学、西洋音楽史を専攻。ウィーンに留学。1993年からNHKの音楽番組に出演。現在『オペラ・ファンタスティカ』パーソナリティのひとり。ラジオ深夜便『クラシックの遺伝子』、MUSIC BIRDに出演中。著書に『これがヴァイオリンの銘器だ』他。