【レポート】丸善雄松堂 知と学びのコミュニティ

ハマるとぬけられない官能的魅力!
珠玉のオペラ歌手の「声」との表現を解剖する

取材・文:編集部

珠玉のオペラ歌手の「声」との表現を解剖する

日本でも毎年いくつもの海外の歌劇場が来日し、新国立劇場での上演がシーズンを通して開催されたり、老舗のオペラ団体による注目の公演が続いたり、オペラを楽しむ人は確実に増えていると思われますが、興味はあるけれど、「一体どうやって楽しめばよいの?」と、思い悩んでいる方も少なくないかもしれません。新サイト「La Valse by ぶらあぼ」の連載「いま聴いておきたい歌手たち」が好評のオペラ評論家、香原斗志さんによるレクチャー〈ハマると抜けられない官能的魔力!珠玉のオペラ歌手の「声」と表現を解剖する〉は、そうした方に応えてくれる場となりました。

レクチャーが行われたのは10月10日の夜7時。場所は市ヶ谷にあるDNPプラザ。このイベントは丸善雄松堂が主催している人気講座〈知と学びのコミュティ)の一環としておこなわれたもので、「ぶらあぼ」の東京MDEと大日本印刷とが協力して実現しました。

会場となったDNPプラザ

当日は約70名の受講生が参加。香原さんが「この中でオペラを観たことある方は?」と聞くとほとんどの方が手をあげました。年齢層は学生風の方からシニアまで幅広く、熱心な方々が集まったようで、みなさんのワクワクしている様子がうかがえました。

さて、香原さんが登場する前に、まず会場で目を引いたのは正面の大きめのスクリーンの他に、客席の両側に計4台のモニターが設置されていること。およそ100席ほどの規模にしては、かなり贅沢、そして効果的であることは、レクチャーが始まってから「なるほどね」とあらためて感じることになります。

前方のスクリーンと両側に設置された4台のモニタ

開会の冒頭では、この催しが丸善雄松堂が主催する〈知と学びのコミュニティ〉シリーズであることが紹介されると「やっぱり教養チックなお話になるの?」と思われた人がいたかもしれませんが、香原さんの軽~く、それでもってツボをおさせえた絶妙なトークが始まるやいなやアカデミックな雰囲気よりも、サロンにいるような気楽で和やかに楽しめる雰囲気に一変。「オペラは総合芸術なので、もちろんいろいろ奥深い見方や楽しみ方はあります。でも、そうは言ってもやっぱり歌がちゃんとしてなきゃならないわけです。オペラ歌手の声の妙技というのは、言ってみればフィギュア・スケートの4回転ジャンプのようなものなんですよ」と続ける香原氏の言葉に、会場はウケていました。

いよいよ本題。映像と音響装置を駆使して実際に「声」の魅力が紹介されます。トップバッターはルチアーノ・パヴァロッティ。彼がどうして、社会現象とまでなった“三大テノール”と呼ばれるようになったか、というエピソードが紹介され、いよいよ《トゥーランドット》から〈誰も寝てはならぬ〉。まずはその輝くばかりの声の魅力に圧倒されます。予想以上に音響が良いことに加え、映像が、前の方の席でなくても左右に置かれたモニターで間近に見られることが、その迫力を倍増しているのでした。

3大テノールの声の魅力に迫る

この後も次々と紹介されていくのですが、そこには、1960年の伝説のオペラ歌手マリオ・デル・モナコがあったかと思えば、現代最高の呼び声も高いヨナス・カウフマンあり、また冒頭で話された“4回転”とはまさにこれ!とばかりファン・ディエゴ・フローレスのロッシーニ《湖上の美人》のアリア〈おお、甘き炎よ〉)と、名テノールたちそれぞれの個性がはっきりとわかるセレクトが行われています。テノール歌手といっても魅力が一つではないこと、また人の好みは千差万別なのだから、聴く人が「これこそセクシー!!」と感じることが大事なのだということをアピールしました。

さらに、アンナ・ネトレプコとマリーナ・レベカをチョイスした女声の凄さも紹介していきます。すでに世界中で大活躍のネトレプコと、まだ日本では無名に近いレベカという対照的な二人のプリマですが、香原さんは二人の声の美しさやなめらかさだけでなく、図抜けた表現力が“官能的魔力”なのだと語ります。ちなみに香原さんにとって目下のイチ推しソプラノはレベカとのこと。この新進プリマは、今年はトリエステ歌劇場で11月に、来年はミラノ・スカラ座の日本公演で来日するので、「ぜひ聴いてみてほしい」とおススメあり。しかもどちらも《椿姫》のヴィオレッタを歌うのだからこれはもう絶対に聴きたくなりますよね。

香原さんイチ推しのマリーナ・レベカの魅力を解説

最後に再びパヴァロッティの〈誰も寝てはならぬ〉が取り上げられたとき、会場の誰もがちょっとした驚きを感じたのではないでしょうか。パヴァロッティの「声」も「歌」も同じなのに、最初に聴いたときの圧倒感だけではない熱のようなものが心のなかに沸き立つような…。そうか、これが香原さんの言う“ハマると抜けられない官能的魔力”なのですね。

うーん、オペラの声の魅力は深い。官能的=セクシー。オペラはこれでなくてはね。
90分間ノンストップで繰り広げられたレクチャーイベント。ご参加いただいた受講生に
とってオペラの楽しみ方が、より増したのではないでしょうか。これからもどんどん
オペラを聴きましょう!

Information

METライブビューイング2019-20《トゥーランドット》
上映期間:2019.11/15(金)~11/21(木)
*東劇のみ11/28(木)までの2週上映

*エレオノーラ・ブラットはリュー役で出演。詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
https://www.shochiku.co.jp/
https://www.shochiku.co.jp/met/program/2072/

新国立劇場 オペラ《コジ・ファン・トゥッテ》
2020.3/18(水)18:30、3/20(金・祝)14:00、3/22(日)14:00、3/24(火)14:00 新国立劇場 オペラパレス

https://www.nntt.jac.go.jp/opera/cosi/


profile
香原斗志 (Toshi Kahara)

オペラ評論家、音楽評論家。オペラを中心にクラシック音楽全般について音楽専門誌や新聞、公演プログラム、研究紀要などに原稿を執筆。声についての正確な分析と解説に定評がある。著書に『イタリアを旅する会話』(三修社)、共著に『イタリア文化事典』(丸善出版)。新刊『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)が好評発売中。