【レポート】武蔵野音楽大学 管弦楽団合唱団演奏会「荘厳ミサ曲」リハーサル取材

若い学生たちが巨匠のタクトで
ベートーヴェン「荘厳ミサ曲」に挑む

 

 今年創立90周年を迎えた武蔵野音楽学園。初期には武蔵野音楽学校として認可され、戦後には音楽大学音楽学部としていち早く設置認可されるなど、昭和初期から激動の時代を乗り越え、永く日本の音楽界の重要な礎となってきた学び舎であり、ここから巣立った名音楽家も数多い。
 
 90周年を記念する演奏会として開催されるのが、12月の「武蔵野音楽大学 管弦楽団合唱団演奏会」。演目はベートーヴェン畢生の大作「荘厳ミサ曲(ミサ・ソレムニス)」が選ばれた。ベートーヴェン芸術の総決算的大作であり、音楽的にも技術的にも大変な難曲であるばかりか、キリスト教の深い理解、ひいては西欧文化全般の理解まで必要とされるような作品である。音楽大学の学生たちが取り組むことは大変稀少であり、同大学でも取り上げた記録は残っていないらしい。そんな大曲に記念行事として挑むという、その心意気自体がすでに称賛に値しよう。
 
 本番は12月ながら、11月4日に早くもオーケストラと合唱、ソリストがそろってのリハーサルが行われるということで、その現場を見学した。

リハーサルより 提供:武蔵野音楽大学

飯守泰次郎 提供:武蔵野音楽大学

 オーケストラと合唱団は同大学の現役の学生たちを中心に編成されていて、すでに練習も重ねている。とはいえ、これほど濃密な大作となると、練習の持っていき方は一筋縄ではいかないだろう。その若者たちを導くのが、今回の指揮を務めるマエストロ、飯守泰次郎。ドイツ音楽にかけては屈指の巨匠であり、その伝統を伝えていくためにも最高のマエストロである。

 リハーサルは曲順に行われた。1曲目の「キリエ」を始めるにあたり、最初にマエストロが語ったのは「この曲には温かみが大切」ということ。ベートーヴェンを演奏するときはどうしても力みがちになりやすく、まずそのポイントを押さえるのが、学生との共演経験も豊富なマエストロならでは。最初に合唱が歌い出す「Kyrie」という言葉のうち、「Kyri」はフォルテ、「e」はピアノになるが、ともすると「e」が無表情になってしまう。この「e」について、マエストロは4分音符いっぱいの音のふくらみや響きが必要なことを説明。合唱団もすぐに応えてすばらしい響きを実現し、「Kyrie」の3音にベートーヴェンが与えた表現が明らかになる様は、それだけでも胸に迫るものがある。こういった細かいが大切なことが積み重ねられて、大きな音楽が作り上げられていくのである。
 
 第2曲「グローリア」以降も、同様に通しながら難所を確認したり、気付きを与えていく。その際、マエストロは意外にもあまり多くは説明せず、動きを中心に表現を体現していく。それに学生たちが食らいつくように瞬時に感得していく様はとても印象的だった。

 合唱団はなかなか豊かな歌声を響かせていて、卒業生に名声楽家の多い武蔵野音大ならではの存在感。中でもテノールパートは、目立つところで勢いよく通る発声を聴かせて実に頼もしい。瑞々しい感性でベートーヴェン晩年の大作に臨むのもこの公演の意義であり、聴衆にとっても大きな聴きどころとなるに違いない。

リハーサルより 提供:武蔵野音楽大学
 
 その名声楽家のOB・OGによるソリスト陣は、いまや日本を代表するソプラノである森谷真理をはじめ、アルト鳥谷尚子、テノール青地英幸、バス三戸大久。4人とも武蔵野音大出身で活躍中の歌手たちであり、まさしく記念にふさわしい顔ぶれ。この日のリハーサルでも、この段階からさすがの風格ある歌唱を聴かせていて、本公演での名唱は大いに注目となる。
 
 初回の総合わせだけに、さすがにまだ作品の深みに届かず課題の残る箇所もあるものの、まだ公演一ヵ月前であることを考えると、すでに通しながら追求できる状態にあることはすばらしい。この後にさらなる練習と研究が重ねられるわけで、彼らがどんな進化、変化をしていくのか楽しみだ。現役音楽大学生という枠組みを超えるレベルで、ベートーヴェンの傑作の深奥に達するような、充実の公演となる期待が高まる。
取材・文:林 昌英

左より:飯守泰次郎、森谷真理、鳥谷尚子、青地英幸、三戸大久


武蔵野音楽学園創立90周年記念
武蔵野音楽大学管弦楽団合唱団演奏会

ベートーヴェン:荘厳ミサ曲 ニ長調op.123

指揮:飯守泰次郎
独唱:森谷真理(ソプラノ)、鳥谷尚子(アルト)、青地英幸(テノール)、三戸大久(バス)

合唱指揮:栗山文昭 片山みゆき
合唱:武蔵野音楽大学合唱団
管弦楽:武蔵野音楽大学管弦楽団

2019.12/4(水)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール
問:武蔵野音楽大学演奏部03-3992-1120
http://www.musashino-music.ac.jp/
http://www.musashino-music.ac.jp/news/concert/2019_12_04/