勅使川原三郎(ダンサー・振付家・演出家)ロング・インタビュー Part2

interview & text :岡見さえ
photos:野口 博

旺盛かつ豊穣な創作と世界的な公演活動に加えて、2020年4月から勅使川原三郎は愛知県芸術劇場の芸術監督に就任する。任期は2024年3月までの4年間。勅使川原は、中部圏を代表する芸術文化拠点であるこの劇場を、どのように発展させていくのだろう? そしてアーティストとしての展開は? 前号から続くインタビューの後編では、今後の展望を聞いた。


―― 1992年の開館以来、愛知県芸術劇場で初めて設置される芸術監督のポストだそうですが、どのような思いで就任されるのでしょうか?

僕が創作活動を始めてもう数十年が経過していますが、そのはじまりから、長い時間をかけるに値する仕事をしたいと思っていました。ただ長々と続けたいという意味ではなく、それだけの価値があるものに身を傾けることができれば、それは大きな喜びになるだろうと考えたのです。目新しさを追うのではなく、長い時間をかけて面白いことをやりたい。それが僕の生き方、信条です。それを劇場という場で実践する機会をいただいたと思っています。芸術監督を引き受けたのは、アーティストとしての僕個人の表現のためではありません。スタッフとして劇場に関わり、時間をかける価値がある仕事をする。そしてそれを継続させて、劇場に足を運ぶ方たちと分かち合いたいのです。


―― 「観客と分かち合う」ために、具体的に考えている企画はありますか?

愛知はダンスが盛んでバレエ研究所が数多くあるので、これまでなかった合同プロジェクトを実施します。劇場側から声をかけて、劇場が主体となって合同制作を行い、公演を実現する。踊る人たちが開いて関わり、合同で考えることが大切だと思うのです。そして一回だけに終わらせず、継続させていきます。


―― 「継続性」という言葉は、この仕事のキーワードでしょうか?

愛知県芸術劇場にはもともと、ダンス、音楽、現代音楽など各部門にプロデューサーがいて、企画が組まれる。彼らが続けてきた組織、蓄積を尊重するのが第一ですから、僕がすべきは、全体が劇場として成り立たせるために、自分がどう役立つか考えることです。そのひとつが、劇場に継続性を持たせること。何をどのように持続できるか、思想を持ち、思考を続けることです。「きっかけがあれば変わる」と人は言いますが、僕は“きっかけ”は偶然ではなく、それまでの蓄積があってこそ生じ得ると考えています。そのためには、蓄積されたものが何か、きっかけが起こるには何が必要か、そこからどんなフェーズに移るのかを考察しなければなりません。 

また、とある素晴らしいカウンターテナーの方の言葉を思い出すのですが、彼は、歌うときは美や芸術性を考えない、なぜなら彼にできるのは曲を尊重し勉強し、そこに自分がどう生きているかを反映させることだけだ、と言いました。これは、とても本質的なことに思われるのです。巨大な組織、多数の人間が働く大劇場も、各個人の生き方の反映であるべきではないでしょうか。それぞれの生き方を尊重するならば、劇場には時間をかけるだけの価値、つまり「継続性」があってしかるべきなのです。


―― 愛知県芸術劇場には、現時点でどのような印象をお持ちですか?

皆さんが一生懸命で、意識が高く、とても寛容で、開かれている。5名のプロデューサーが活躍しています。まだ一般的ではないですが、僕は、劇場側の責任を明確にすることが、公共の場が活性化する一つのポイントだと考えています。「私がこれを推した」とプロデューサーが作品に責任を持ち、作品に対する喜びも批判も受け入れるのは大切なことです。芸術監督が冠に、劇場が器になるのではなく、そこで人が鍛えられていく場となるよう応援したいと思っています。


―― 2013年に東京・荻窪に個人劇場「アパラタス」をオープンし、ダンス公演やワークショップを実施されていますが、今後のアパラタスでの活動は?

変わらずやります。3月にはリヒャルト・ワーグナーのオペラ《トリスタンとイゾルデ》をもとにした作品の再演も決まっています。ダンスに限らず、研究者や美術家を招いた勉強会のようなワークショップを実施し、ものを考える場所にしたいと思っています。

『トリスタンとイゾルデ』より
photo by Akihito Abe


―― 実践の次にダンスをめぐる思考の場を作る、ということでしょうか。

ええ、それは本当に大事だと思っています。ダンスは、ダンス以外のことによって成り立っていると言っても過言ではないと僕は考えていますが、ダンスの為に何ができるかを探求します。もちろんダンスについてもっと語るべきだし、ダンス・メソッドの解析のような厳密な提示の仕方、レクチャーも計画しています。

アパラタスは、気軽に出入りできる場所にしたいと思っています。荻窪の駅から3,4分、新宿からも近いですし、最近ではダンス関係以外の方も大勢観てくれます。演劇的な作品のときは演劇関係者、音楽関係ではオーケストラの方や外国の演奏家、美術家やプロデューサーも来てくださっています。様々な専門家ですね。そしてなによりも地元の方がふらっと散歩がてらに寄ってくださいます。


―― 国外での活動もこれまでのように続けていかれますか?

はい、もちろんです。アパラタスで初演した作品を、ヨーロッパやロシアで上演する流れが生まれていて、近年、海外ではアパラタスの存在は随分知られています。ヨーロッパではパリのシャイヨー劇場を本拠地にしていて頻繁に公演し、パリ管弦楽団の地元、世界最高峰の劇場フィルハーモニー・ド・パリでも毎年新しい企画を立ち上げて素晴らしい演奏家と共演しています。その作品はほとんどすべてアパラタスの小さな劇場で初演したものです。彼らプロデューサーは作品の質とオリジナリティを評価しますから、アパラタスの素晴らしさ、その価値を実に高く認めてくれています。もちろん国内の他の劇場との関係も大事にしています。

国内・国外の活動のバランスがうまく取れているので、今後もアパラタス、そして愛知から、世界へ展開していきます!

>>Part1


Profile
勅使川原三郎 / Saburo Teshigawara

1981年より独自の創作活動を開始。85年ダンスカンパニーKARAS設立。世界の主要な芸術祭や劇場から招聘され毎年公演。独自のダンスメソッドを基礎に美術と音楽の稀有な才能によって創作を続ける。パリ・オペラ座を始めとした欧州の主要バレエ団に委嘱振付、エクサンプロヴァンスフェスティヴァル、ヴェニス・フェニーチェ劇場でのオペラ演出等、芸術表現の新たな可能性を開くアーティストとして創作依頼多数。2013年に活動拠点カラス・アパラタス開設。2020年に愛知県芸術劇場芸術監督に就任予定。2007年芸術選奨文部科学大臣賞、2009年紫綬褒章、2017年フランス芸術文化勲章オフィシエ他、受賞多数。


Information
 
●アップデイトダンスNo.69『トリスタンとイゾルデ』
2020.3/20(金)〜3/23(月)、3/25(水)〜3/27(金)各日20:00
3/28(土)16:00

東京・荻窪/カラス・アパラタス
演出・構成・出演:勅使川原三郎 出演:佐東利穂子
http://www.st-karas.com

●勅使川原三郎 愛知県芸術劇場 芸術監督就任記念シリーズ
◎『白痴』

2020.7/17(金)〜7/19(日)愛知県芸術劇場(小)
出演:勅使川原三郎、佐東利穂子
◎『調べ― 笙とダンスによる』
2020.12/4(金)〜12/6(日)愛知県芸術劇場(小)
出演:勅使川原三郎、佐東利穂子(以上ダンス)、宮田まゆみ(笙)
◎芸術監督 勅使川原三郎『新作ダンス公演』
2021.2/21(日)〜2/23(火・祝)愛知県芸術劇場(小)
https://www-stage.aac.pref.aichi.jp/index.html