新国立劇場のオペラに出演! 人工生命×アンドロイド「オルタ3」

人工生命を宿したアンドロイド「オルタ3」が、人間とアンドロイドとの新たなコミュニケーションとエンタテインメントの世界をひらく——。2月28日に新国立劇場で行われた「4社共同研究プロジェクト合同記者発表会」からは、科学技術と表現とが交錯する場所に新しいオペラが生まれる構想が発表された。
(2019.2/28 新国立劇場 取材・文:室田尚子 Photo:J.Otsuka/Tokyo MDE)

左より:内田まほろ(日本科学未来館展示企画開発課長)、島田雅彦、大野和士、渋谷慶一郎、増井健仁(株式会社ワーナーミュージック・ジャパン エグゼクティブ プロデューサー)、木村弘毅(株式会社ミクシィ 代表取締役社長執行役員)、池上高志(東京大学教授)、石黒 浩(大阪大学教授)、小川浩平(大阪大学講師)、土井 樹(株式会社オルタナティヴ・マシン)、村瀬龍馬(株式会社ミクシィ 執行役員 CTO)
人工生命×アンドロイド「オルタ3」

「オルタ3」とは

「オルタ3」とは、人間とのコミュニケーションの可能性を探るために開発された人工生命(ALife)を宿したアンドロイド。コンセプトは「新しいバーチャルリアリティの概念のもとに、人とアンドロイドを繋ぐ世界を作る」だ。2016年に日本科学未来館で展示されたのが始まりで、「3」とついている通り、今回発表されたのは3代目の「オルタ」だ。ちなみに2代目の「オルタ2」は、昨年夏、日本科学未来館で渋谷慶一郎作曲の「Scary Beauty」を指揮して大いに話題となった。

本プロジェクトは、株式会社ミクシィ、世界的なアンドロイド研究のパイオニアである大阪大学石黒研究室(アンドロイド開発:小川浩平)、ALife研究のパイオニアである東京大学池上研究室、そして株式会社ワーナーミュージック・ジャパンの4社が共同で発足させたもの。ミクシィは、「オルタ3」のシミュレーターを提供、またワーナーミュージック・ジャパンはプロジェクトの実証実験の場を提供している。

今、私たちの周りでは「人工知能(AI)」が脚光を浴びているが、「人工生命(ALife)」はいわば「生命としてのAI」。東京大学教授の池上高志によれば「人間がやっていることを自動化するのがAIで、ALifeは自ら動き、行動する」のだという。また、池上研究室と共同でオルタの開発を行ってきた大阪大学教授の石黒浩は、「非日常的な事柄をリアルに体験させるのがバーチャルリアリティ(VR)だとすれば、オルタは非現実的なことを日常生活に持ち込むことで、人と人とをつなぐ存在」だと語る。
大阪大学石黒研究室で開発の主軸を担う小川浩平は「オルタ3」のことを「世界で一番人間の想像力を喚起して強烈な存在感を示すロボット」だといい、「ロボットが人と人を繋げ、新しい環境を作れるメディアとしての可能性」を示唆している。

左より:増井健仁(株式会社ワーナーミュージック・ジャパン エグゼクティブ プロデューサー)、木村弘毅(株式会社ミクシィ 代表取締役社長執行役員)、石黒 浩(大阪大学教授)、池上高志(東京大学教授)

アンドロイド・オペラ《Scary Beauty》

12年にバーチャル・シンガー初音ミク主演によるボーカロイド・オペラ《The End》を山口情報芸術センター[YCAM]で発表、その後東京とパリで上演し、成功させた渋谷慶一郎がアンドロイド・オペラ《Scary Beauty》をつくろうと思ったのは、近年流行ともいえるテクノロジーと音楽とのコラボレーションに、ある種の物足りなさを感じていたからのようだ。そのことを渋谷は「ヤバいものが少ない」と表現する。そもそも《The End》におけるテーマが「生と死」だったことからもわかるように、渋谷の興味のポイントは「人間(=命あるもの)にしかできないことと、アンドロイド(=命ないもの)にしかできないことをかけ合わせたら、どんなものが生まれるのか」というところにあったようだ。《Scary Beauty》を生み出す過程は、「命のないものに命を与える作業」だったという。
この《Scary Beauty》は、3月13日にデュッセルドルフで上演されるほか、9月以降世界数ヵ国でも公演が予定されている。また、「オルタ3」はデュッセルドルフで3月28日から5月5日まで展示された後、ロンドンのバービカンセンターで開催される「AI: More Than Human」展でも展示が決定している。

渋谷慶一郎

新国立劇場による新作アンドロイド・オペラ

さらに、世界の注目が東京に集まる2020年の8月下旬(オリンピックとパラリンピック開催期間)には、新国立劇場で「オルタ3」が登場する新作のオペラ上演が予定されている。作曲は渋谷、そして台本は作家の島田雅彦が担当。舞台上には「オルタ3」と100人の子どもたちが出演。子どもたちが「オルタ3」から知恵を受けながら、人間の未来を考えていくというシナリオだという。同劇場オペラ芸術監督の大野和士は、「80人編成のオーケストラによる音の洪水の中で、アンドロイドと子どもの合唱が人間の未来を考えていく。たいへん挑戦的な作品になると確信している」と語った。また大野は、欧米のメディアにも情報を発信し、今後の共同制作に繋げたいという意欲をみせた。

左より:島田雅彦、大野和士、渋谷慶一郎

アンドロイドが喚起するもの

会見後には、「オルタ3」と国立音楽大学学生・卒業生有志オーケストラ、渋谷のピアノによる「Scary Beauty」の演奏も行われた。初めは単に“機械の動き”に人間が合わせているだけなのか、と思われたが、徐々に、「オルタ3」が動き、声を発することで生まれる「場の空気」が、明らかに音楽と呼応しあい、揺らぎ出すのを感じた。「アンドロイドの不正確な、戸惑いがあるような動きや表情が人間に何を及ぼすのか。それを表現するためにはシアター作品である必要がある」と渋谷が語ったように、「空間の揺らぎ」そのものを体感するという意味でまさしくこれは「シアター・ピースとしてのオペラ」なのだ。20年にはこれに100人の子どもの歌声が加わる。その時、劇場はどんなすがたになるのか。今から待ち遠しい。
(WEBぶらあぼより)

「Scary Beauty」演奏の様子
「オルタ3」と渋谷慶一郎(左、ピアノ)、国立音楽大学学生・卒業生有志オーケストラ
「Scary Beauty」演奏の様子

[動画]
渋谷慶一郎と人工生命×アンドロイド「オルタ3」らによる「Scary Beauty」初披露
(2019年2月28日 新国立劇場において
動画提供:4社共同研究プロジェクト C)Scary Beauty / 渋谷慶一郎)

新国立劇場
https://www.nntt.jac.go.jp/

新国立劇場2020年特別企画<子供たちとアンドロイドが創る新しいオペラ>
2020年8月下旬 新国立劇場オペラパレス

https://www.nntt.jac.go.jp/opera/news/detail/6_014990.html

Scary Beauty 公式サイト
http://scarybeauty.com/